神戸市営駐輪場の「無料化」は
ホンマかいな?

神戸新聞』に「駐輪場を無料化 放置自転車対策で神戸市」2003/09/19という記事があったんですわ。

「駅前の放置自転車対策として、神戸市は来年一月から市営駐輪場五カ所を無料開放する。これまでの違法駐輪を排除する姿勢から、無料にしたスペースに呼び込む「逆転の発想」で、全国でも異例の取り組みという。今後、周辺の放置自転車の増減などを調べ、他の駐輪場にも拡大する方針。……」

地元地方新聞で肯定的評価のもとに報じられられとるトコの内実を検討し,今後を展望してみまひょ。

日本と世界の趨勢

この10〜20年来,日本各地において,行政わい−地方自治体によって,自転車および利用者の立場をないがしろにし,ひたすら対策の対象に位置づけるゆう愚策がまかり通ってきたちうわけや。こないなもんは,地球環境に対する問題意識・危機感が高まるなか,交通・移動手段としての自転車の役割が重視されつつある趨勢にあって,他の先進国では見られへんもんなんや。

あわせて,日本の行政わい−地方自治体は「“放置”自転車」の対策を,あくなき利権追求の機会としてきたちうわけや。「利」の面では,継続的・反復的に行える上,その対象・範囲も自らの裁量でなんぼでも拡大できるもんであるちう点で,ウマイもんなんや。また「権」の面では,その権限拡大を画策し,「全国自転車問題自治体連絡協議会」なるもんを組織し,中央官庁・国会議員へのロビー活動を行うやらしたのや。かくして権力的にも,支出先としたかて膨張の一途をたどってきたわけやけど,バブル経済期の潤沢な税収によってまかいなうことで現実化させたもんやから,バブル崩壊後の長期不況下の税収減のなかで,今日的に見直しを迫られはるべきでありながら,放漫的浪費を続ける行政わい,「受益者負担」(!?)なるもんに幻惑され一方的負担と犠牲を強いられる市民双方とも,問題意識はまだ低いと言わざるを得へん。

そないな否定的情況が続くなかで神戸市が,かかる路線からの転換をはかろうとしたことは,ひとまず評価できまひょ。

阪神淡路大震災と「“放置”自転車」の対策

次に,その具体的内容を,従来の情勢をふまえつつ検討していきまひょ。

「報恩」と「忘恩」のはざまで

阪神淡路大震災の後,神戸市に限らず阪神間の被災地各地において,ライフラインや公共交通機関が寸断された中,単車や自転車が被災者の救援物資輸送や生命維持に果たした役割を忘れることはでけへん。それに対する報恩の念もあったんやろうか,また自転車対策を担う部門が土木部門にあることが多い中で,手が回らへんかったため,ちーとの間は自治体−行政わいも,「“放置”自転車」の対策に血道を上げることはあんまりあらへんかった。せやけど97〜98年頃からもっかい猖獗に走るようになりよった。しかも,仮設住宅住民ら被災者に対する処遇と自転車に対するそれとの間には,ごっつう高い相関関係を見いだすことができたちうわけや。すなわち,被災者(とりわけ社会的弱者)に冷酷なトコロでは自転車にも冷酷であるちうことで,後者に関しては,震災前からの傾向とも重なるのや。

神戸市に関しては,わざとコストがかさむようにつくった駐輪場はそれほどようけはなく,既存スペースの有効利用において比較的合理的な構造・配置のもんが多いちうわけや。そやかてこの1〜2年の間,急激に有料化を強行してきたちうわけや。こら従来から自転車利用者にごっつうイケズしてきよった,近隣の明石市芦屋市西宮市やらに引きずられよったもんでもありまひょ。

鉄道交通事情と自転車

東西に長く,海岸ねきの部分に平地が集中してんちう地理的事情,住宅地が山間部へとのびてきたゆう経緯を考慮したら,神戸市における自転車利用事情について詳述するまでもなく,賢明な読者のみなさんには,その傾向が理解されるやろう。

神戸を中心に阪神間の鉄道交通事情について概略を述べておくと,大阪から神戸中心部の三宮までは,主に住宅地である北側の山の手に阪急電鉄神戸線,阪神工業地帯の一角を担う南の海側に阪神電鉄本線,その中間をJR西日本神戸線(東海道本線)が並行して走っとる。運賃・必要なもん時間・利便性で永きにわたって激しい競争を繰り広げてきたことで知られとる区間や。

せやけど神戸中心部から西側および山間部となると事情は異なるちうわけや。JR神戸線(東海道本線・山陽本線)は引き続き西に延びるが,西代からは山側に山陽電鉄が並行して走るちうわけや。また湊川からは有馬方面に山間部をぬって神戸電鉄が走るちうわけや。阪急・阪神・山陽・神鉄の4私鉄各線は神戸高速鉄道によって結合され,神鉄をのぞき直通運転・相互乗り入れ可能となっとる。さらに新神戸(山陽新幹線と接続)・三宮を経て,神戸市西部の内陸部に神戸市営地下鉄が走っとる。市営地下鉄・山陽・神鉄の沿線地域は,神戸中心部やそれ以東へのアクセスにおいて,地形面の要素もさることながら,鉄道運賃の高さのため,大きな負担を強いられとる。とくに山陽・神鉄からは神戸高速鉄道を利用せなならへんためなおのことなんや。神戸高速は神戸市の天下り先でもあることから,いずれにせよかかる地域は「株式会社神戸市」による大衆収奪の犠牲になっとる。

今回「無料化」されるんは,山陽西代(長田区)・西舞子(垂水区),神鉄山の街(北区)・木幡・栄(西区)の各駅前の市営駐輪場で,いずれも「一日平均18―31%の利用にとどまっている」ので「利用が少なく、収容に余裕のある駐輪場を無料にし、放置自転車を減少させることにした。現在の利用状況からすると、無人化による経費削減も見込めるという」もんなんや。

神鉄3駅はいずれも,北区の中心地で住宅開発が進んどる鈴蘭台から,有馬・粟生方面に分岐した先にあり,山間部やから地形的にも自転車利用に便利といえへんし,近隣人口からして駅への自転車利用者数自体がようけなり得んところや。一般に駐輪場の有料化は,その周辺の駐輪を非合法化するっちうこととあわせ,自転車利用を抑制するっちうことをねらって行われるもんでもあり,その点ではこれだけの利用率があることの方が不思議なくらいやおまへんか。

駅の鉄道および自転車利用者数が限られとる点では西舞子(垂水区)も同様や。神戸市内で最も西の鉄道駅である同駅には優等列車は停車せへんし,駅への進入路の交通量は少なく,比較的交通量がようけ幅員が広い道路は,附近で山陽電鉄と併走するJRの舞子(山陽舞子公園駅と接続,西舞子駅からは1kmも離れておらへん,明石海峡大橋にも通じとる)・朝霧(2001年7月21日,駅前の大蔵海岸での花火大会の後,圧死者が出る事故が起りよったんは同駅に通じる歩道橋,同駅は神戸市との境界ねきやけど明石市になる)両駅に通じとる。いずれも鉄道が走る海岸ねきまで山が迫っとる場所だけに,これまた地形的にも自転車利用者のぜぇったい数が限られよるトコや。これら4駅の現状(対策対象であるはずの「“放置”自転車」数については明らかにされておらへん)はいずれも,その建設と維持管理がもたらす利権追求の所産として駐輪場がつくられよった結果に過ぎないんや。

行政わいによるあくなき利権追求のため,「山,海へゆく」やらといわれながら,過大な需要予測のもとに過剰な開発土木建設事業を続けてきたのが「株式会社神戸市」である(その最大最後のもんが建設強行されつつある神戸空港なんや)。高度経済成長やバブル経済の中でその過剰分が一定程度吸収されてきたもんの,今日的にはもはや許されへんもんとなっとる。その大小にかかわらんと,こないなもんからの脱却の中で,今後の施策が行われるもんやないとあかん。

生活再建の中で

残る西代は「無料化」による利用増加が見込める可能性が比較的高いちうわけや。大開通の地下にある山陽・神戸高速の境界である同駅は,乗換駅やないけど優等列車も停車するため鉄道の利便性も良う,周囲の地形が平坦で自転車利用に適した地形でありながら,震災とその後の再開発のため周辺人口が回復しておらへん。同駅から南(海)側1kmもないトコにはJR新長田駅があり,同駅周辺も震災の甚大な被害と再開発のため周辺人口は回復しておらへん。両駅附近に依然ようけの空地が見られよることからも容易に理解されまひょ。西代から約1km,1駅西は板宿やけど,同駅前には新長田駅前同様商店街やらのショーバイの施設があり,地形的にも平坦で,自転車利用者もようけ,駅前駐輪場は有料化されとる。また約1km東には高速長田がある。


西代〜JR新長田駅間 (2003.7.26)

阪神淡路大震災で甚大な被害を受けただけやのうて,再開発のせいで住民が未だに戻って来へんいままになっとるさかい,依然震災の爪痕を多く見ることができる一方,地域人口は回復してへん。

こないな情況で西代駅前の駐輪場だけが「無料化」されれば,この両駅前からの流入がありうる(高速長田からのは方角的に疑問,その分両駅附近の商店の来店者数・売り上げが低下する可能性もあるんや)。かくして流入した自転車利用者が,西代駅特有の利便性に気づいて利用し続けることも考えられるが,そのほとんどは他に適当な無料駐輪場ができれば流出するやろう。西代駅前の駐輪場ちうんは,駅の上を通る道路の立体交差下のスペースを利用したもんで,駅入口から若干の距離もあるんや。すなわち利用ニーズに即してつくられよったもんやのうて,かかるスペースにあわせてつくられよったもんなんや。これで利用率を云々する方がナンセンスや。それよりまえに,震災後8年あまりを経た今日も,同地に自転車利用者はもとより住民そのもんが戻れへんし,生活再建できんとおることが,そもそもん問題なんや。

ずぅぇえんぶの都市住民と環境に優しい街のあり方を追求する中で,公営駐輪場の即時全面無料化など,自転車および利用者の地位向上を目指すべきトコロであるが,この神戸市のケースにおいては,被災住民の生活再建の成就の中で,追求されねばならへん。かかる観点から今後に期待したいちうわけや。

(2003.9.20)

「無料化」試行の実態は?

2004年に入って「『無料化』試行」は実行されよった。これを実行しよった神戸市当局の自己評価はともかくとして,その意図はどこにあるんやろか。「無料化」されよった駐輪場は,どっこも利用率が低いことがその理由やったけど,同時に「無人化」の「試行」でもあった。これについて神戸市当局自身がどのように認識しとるかは定かやないけど,いずれ一応の成功であるかのごとき“結論”を導き出すやろう。その中にはご都合主義的・恣意的な解釈も含まれよるやろけど。

少なくとも「無料化」によって駐輪場の利用が減ることは考えられへんし,実際に若干の利用増があるんは,誰の目にも明らかや。だが「利用率」となると別や。「無料化」開始後に,駐輪場の一部のもとから利用が著しく少なかった部分を閉鎖するやら,分母を小さくして「率」の数字を上げる粉飾を図りよった例もあるからや。

利用率の低さの原因としては,駐輪場が有料であること自体の不当性があるんは当然やけど,周辺人口や自転車利用のニーズを越えた過剰な規模での設置のように,「無料化」によって解決できないものも含まれとる。また一定条件下では駐輪料金の徴収にかかるコストが,機械化などによる省力化を図ったとしても厳しいものがあり,むしろ「無料化」によって収入源を失っても「無人化」に伴う維持・管理費用の削減効果の方が大きなることを期待しての面もあるやろう。

このことについて逆に言うたら,こないな「無料化」−「無人化」の一方で,自転車および利用者からの収奪がヨリ可能で,さらなる利権追求ができる思われるトコには,さらなる収奪強化を目論んでいるものとして,警戒せなあかん。現状では,利権追求のための過剰設備と大衆収奪に対する真摯な自己批判にはほど遠いですわ。

(2004.2.17)




西代駅前駐輪場の「無料化」前(上)と後(中・下) (2003.12.14, 2004.1.10, 3.11)

いずれも利用者が比較的少ないと思われる日曜・土曜の午前中に撮影。またいずれもほとんど同し時刻における周辺駅附近の駐輪場と比べて利用率が低いことには違いがあらへん。これは西代駅前駐輪場が自転車利用のニーズと乖離した過剰施設であることの証左や。こんことは同じガード下のうち西半分が以前から駐輪場やのうて“撤去”しよった“放置”自転車の保管場所となっとることからもわかるちうわけや(右下)。この「無料化」は無人化による経費節減効果を期待してのことでもあるんやけど,この効果は,建設のみならず維持・管理にも冗費を嵩ませてきたことを裏書きするものでもあるんや(右上)。ここでは「無料化」に際して,地下部分を閉鎖しよったけど,もともと利用がホンマにチビットやった境,それを差し引いても,一応駐輪場無料化の効果自体はあったことになるちうわけや。2月にって神戸市わいは「無料」を誇示するかのごとく宣伝しだした。その効果かどうかは解らんけど,3月としてはかなりぬくい平日の昼間,かなりの利用率となっていることが確認されたちうわけや(下)。


JR新長田駅附近 (2004.3.11)

同駅近辺の駐輪場はもとはタダやったもんが有料化され,過剰につくられよった駐輪場はほとんど使われてへん。一方で利用者の必要に応じた駐輪がなされとる。

無料化「実験」の結果と市わいのホンネ


西代駐輪場 (2006.9.23)

地上部分だけに縮小されたスペースにたいする充足率は高い状態になっとうちうわけや。創出され吸収された駐輪需要の内実を,市民−利用者の立場から明らかにする必要があるんや。

駐輪場無料化が報道されて満3年,無料化「実験」開始から2年10ヶ月が経過したちうわけや。神戸市わいによるこないな駐輪場無料化「実験」を,手放しで喜んだり礼賛したりするっちうことはでけへん。あくまで主体的市民の一翼を担うべき自転車利用者の立場から,その動静に厳しい目を注ぎ,権利と主体性の回復を図るもんやないとあかん。

この西代駐輪場において,無料化に伴い利用が増加したことは明らかや。やけど,現下の西代駐輪場の利用情況が,西代駅周辺地域の自転車利用情況および同駐輪場にたいする本来の駐輪需要のいずれともイコールの関係にはあらへんことに,用心せなあかん。

このことは,同駅はもとより,長田(神戸高速・市営地下鉄)・板宿(山陽電鉄・市営地下鉄)・新長田(JR山陽本線・市営地下鉄)といった近隣駅附近をも含めた地域の自転車利用の情況をあわせて見れば明らかや。西代駐輪場の利用者が西代駅を最寄りとするエリアを大きく越える広がりを見せとることは,神戸市わいが利用者にたいして行ったとされるアンケートからもその一端が伺えるちうわけや。乗換駅でもあり本数も多い上記近隣駅利用者が,こないな駅近辺の有料駐輪場を利用せへんと,タダになりよった西代駐輪場に向かったことは,近隣駅近辺の有料駐輪場(これらも駐輪需要以上に過剰に造られ,前々から空きが目立っとる)の利用が,ヨリちびっとになっとうことで,裏書されとうちうわけや。

西代駅前駐輪場本来の利用需要は,近隣駅前の駐輪場をあわせて無料化し,各々の地域・駅前の本来の需要に基づいた駐輪場の規模設定を行う中で明らかにされなあかんのや。

また件のアンケートでは,無料化に伴う問題点を挙げさせ,利用増加を口実に,管理上の理由で閉鎖した地下部分を再開させ,もっかいの有料化に翼賛させることを目論んだ,恣意的調査項目があることを見落としたらあかん。

西代駅附近に限らんと,長田区は震災前から自営業者が多いんや。都心部やらの他地域への通勤における自転車利用の割合がそれだけちびっとなことを意味するちうわけや。震災によって少なからざる部分が大打撃を受け,未だ元の地においての生活再建がかなわへん住民・事業者が少なない中にあっても,同様の傾向にあるんや。したがって鉄道やらの公共交通機関にアクセスするための端末交通手段としての自転車利用のウェイトは相対的に低うて,地域内及び近隣地域間での直接アクセスにおける自転車利用が,その分自転車利用需要としては大きい割合を占めとる。

これが駐輪場の利用情況と地域の自転車利用需要の乖離を示す理由の一端やけど,もしこないな乖離が少なくなりよったら,地域の産業構造が変わって,震災による被害からの生活再建がもはやかなわぬもんとなりよったことを示すことになるやろ。


西代駐輪場の地下スペースと高架横側道 (2006.9.23)

この駐輪場は立体交差下のスペースを利用して造られとるが,桁下高さが少ななる部分を掘り下げて半地下式にして面積拡大を図ったちうわけや。こら駐輪需要を考慮・予測して造られよったもんやのうて,単に建設費用とその後の管理コストを嵩ませ,利権拡大を図ったもんに過ぎへん。神戸市わいは,無料化による需要増加にともなって,この部分の利用を再開させることを口実にもっかいの有料化を目論んどる。

生活再建達成の中での自転車利用推進を

西代駅近辺を含めた長田区は,阪神淡路大震災において甚大な被害を受けただけやのうて,震災以前以後を通して強行されとる再開発事業のため,地域住民の生活再建は未だに成し遂げられてへん地やちうことを,改めて想起せなあかん。再開発にともなう換地やらはほとんどが済まされてしもたが,いまんなっても至る所に空き地が目立つトコに,こないな現状の厳しさをうかがうことができるちうわけや。「山,海へゆく」ちうフレーズに象徴された「株式会社神戸市」の開発行政の強行ももはやかなわなくなりよった現在,自転車利用者はもとより,それを含めた地域住民の生活再建と復興の達成が,駐輪を含めた自転車利用情況より前に問題にされなあかん。住民生活の再建達成と地域の活性化を図る中で,利用者−市民本位の自転車利用推進策を実現するもんやないとあかん。

駐輪場の再有料化阻止と全面無料化を

自転車利用政策をともなわんと,あまっさえそれに対立するかたちで,跛行的に追求・肥大化させられてきたトコに,神戸市にとどまらへん,日本の行政わい−地方自治体による自転車対策の異常性が端的に示されとう。世界に類例を見いひんこないな異常な自転車敵視策を根底から造り替えてゆくことが,日本の主体的市民の課題なんや。また,大衆収奪強化ともなる駐輪場の再有料化を阻止するとともに,市営駐輪場の全面無料化こそが,当面の課題における出路であることを,はっきりと示しておきまひょ。

(2006.10.17)

神戸市営駐輪場の「無料化」の位相

以上のように,神戸市わいが有料としてきよった市営駐輪場(市わいは「神戸市立自転車駐車場」とヌカす)をタダにしよったんは,周辺の人口や自転車利用情況からして駐輪場が過剰となってて,見込まれる利用料に限りがあるさかい,管理・維持コスト削減をもってしたろちう意図からなされたもんやった。したがって従来の自転車“対策”を根本的に転換したんとちゃうんや。

むしろその一方で,繁華街である三宮〜元町〜神戸〜兵庫といった地域では,自転車利用者のニーズや利害に対立する自転車“対策”がエスカレートしとって,商店街への自転車乗り入れ妨害,“放置”自転車“撤去”の強行化とその範囲拡大,駐輪場の有料化とその増加やらが各処で見られ,そのなかで自転車および利用者からの収奪強化も進んどる。いわば「取れるトコから取る」ちうべき「株式会社神戸市」らしい自転車“対策”や。

こないな大情況にあっては,神戸市営駐輪場の「無料化」は,ものごとの一面に過ぎへん。

あの地で始まった新たな試み

こないななかにあって,新たな動きも出てきたちうわけや。従来の過剰駐輪場の「タダ化」とも,繁華街における自転車“対策”エスカレートともなんぼかちごた,また地元住民以外の人からはあんまり目につきにくい場所的空間において,そら始まったちうわけや。

ある市会議員の取り組み

須磨区の神戸市営地下鉄西神・山手線(せいしん・やまてせん)名谷(みょうだに)駅附近には,駅の東・西・南側に有料駐輪場があり,この中でとりわけ駅から離れた場所にあり利用率が低い南側の駐輪場を無料化し,あわせて駅前の商店の活性化を図ろうゆうもんや。こら地元須磨区選出のある市会議員公約に掲げ,市わいへ要望し,その実現例として宣伝してんもんや。実際2007年5月から一部「無料化」が始まっとって, 2009年1月からは対象拡大されたちうわけや。

この市議の公式的なスタンスとしては,駅周辺に充分な駐輪スペースがあって,余裕あるトコはタダで開放すべきやし,最終的にはタダの駐輪場を増やすべきゆうもんで,市わいの既定路線内での延長的実現を図ったもんや。あわせて商業施設の活性化や駅利用者の増加やらも「無料化」の大義名分のなかに含めとうけど,その成果のほどと,他への応用可能性の展望については,まだ語られておらへん。

あの事件の街は今

そもそも,神戸市民であっても地元在住者やないとなじみがちびっとの,この名谷地区がどないな地理的環境にあるかを説明せなならへんやろ。

この地区は須磨区にあたるけど,同じ須磨区であっても,海水浴場として知られよる白砂青松の須磨海岸がある南部地域や,その東部で長田区に隣接する,阪神・淡路大震災で甚大な被害を受け,さらに区画整理のため,被災者・住民の生活再建に大きな影を落としとう,板宿を中心とする旧市街地域とは別や。これらにたいして北須磨とも呼ばれる地域の中心がこの名谷や。また西側に隣接する西区・垂水区との境界も近いちうわけや。古くは摂津・播磨の国境地帯やし,播磨国にあたる両区との境界はほとんどが急峻な山岳地帯となっとう。また,東・北側にも山が迫っとって,3方を山に囲まれ,残る南側は,南向き斜面を基本とした複雑な地形や。阪神・淡路大震災の被災者向けの復興住宅を含めた市営住宅や,「山,海へゆく」のスローガンのもと開発されてきよった住宅地をあわせて,名谷駅から半径2〜3kmのトコに人口が集中し,その地形から,神戸中心部やら他地域とはほとんど隔絶された郊外新興地域となっとう。

神戸の鉄道交通事情は先にも述べたけど,名谷駅は,西神ニュータウンにのびる神戸市営地下鉄の駅やし,神戸中心部やその他ん地域への交通費やら必要な時間において,相当な負担が要求されとうトコや。ちなみにここからもっともはよ海岸部にいたるには,垂水行きのバスを利用するっちうことになるちうわけや。明石およびそれ以西へ行く場合も同様や。また名谷駅から南へある程度行ったトコロでは,海岸ねきを走るJR山陽本線・山陽電鉄両線の須磨駅の方が利便性が高いちうわけや。神戸中心部やそれ以東やったら,JR線利用がもっともはよて安い場合がようけ,地下鉄名谷駅利用のメリットはきわめてちびっとの。

1997年2〜5月にかけての神戸連続児童殺傷事件はこの地で発生したちうわけや。「酒鬼薔薇聖斗」を名乗った犯人が当時14歳の中学生の少年であるとされたことは,その事件自体の凄惨さとあわせて広く衝撃を与えたちうわけや。この少年を犯人とするっちうことに疑念があるちう者がいたり,事件の真相を究明するなかで,事件そのもんを「権力の謀略」とする政治党派もあるが,その当否はともかくとして,一連の事件がみなこの地で起こったことと,権力者がこの事件を最大限利用したろとおもたことは紛れもへん事実や。このことは,当時はもとより,今なお地域住民の意識情況を規定しとう。

阪神・淡路大震災ではこの地域に目立って大きな被害はあらへんかったけど,被害が甚大やった地域の情勢をめぐって心ないデマが一部住民の間に流れるといちうたことから,既にその下地があったともいえようけど,連続児童殺傷事件発生のちびっと前から散発的に起こっとった動物虐待が少なからざる地域住民に知られとったことによって,住民の不安や危機感,相互不信が煽り立てられ,上からの情報操作に絡め取られやすい心理状態が醸成されとったことが前提としてあり,連続児童殺傷事件発生後には,いちはよ一部で自警団が組織されたり,公園の樹木を刈り取って見通しをようするやら,相互監視体制づくりとその可視化を通じて,こないなもんの当然視を謀るようなことが,相次いでなされとったんや。

こういった情況はまた,行政わいによる自転車“対策”の反動化が進んだり,自転車および利用者をシカトした反「“放置”自転車」キャンペーンを通じた上からの組織化や大衆操作が浸透しやすいもんなんやし,主体的市民としての自覚や,自転車利用がその権利であるとの覚醒が阻まれやすいもんでもあるんや。地理的隔絶と地域内で完結する生活スタイルを持つ住民が,とりわけ昼間人口において多いことは,他の地域との比較ちう視点が確立し,そこから現状への疑問が生じる余地が小さいことを意味するちうわけや。

現状と意義

地理的条件と住民意識の両面からして,地域で利用される自転車に自ずと限度が生まれることから,行政わいによる自転車“対策”のエスカレートにも限度が生まれると考えられ,自転車および利用者の立場からも,これに異を唱えるだけの主体的覚醒の機会もあんまりなさそうななかで,市営駐輪場の一部「無料化」が実現したんはどないな理由によるもんやろうか? もちろん件の市会議員の尽力もあろうが,有権者−市民の声が大きくなければ,実現するっちうことはあらへんはずや。

有権者−市民をしてかく覚醒せしめ,市会議員をして動かしめたもんは,ニーズをシカトした便利わるうて過剰な有料駐輪場の存在と,それに巣くう駐輪場管理者による粗暴な言動やった。

前者についちゅうやったら,神戸市わいも一定の自己批判のもと,その姿勢を軟化させてきたもんやけど,名谷駅近辺の場合,総体としてニーズを上回っとうちう点で過剰といえるもんで,とりわけ,駅南側のそれが,収容台数において最大規模でありながら利用[率]が最小となっとうちう,ニーズとのミスマッチが顕著なトコや。

ニーズちう点では,名谷駅へのアクセスのための自転車利用ちう点においては,駅南側の,とりわけ須磨駅にアクセス可能な住民が,わざわざ便利わるうて運賃高額な地下鉄名谷駅を,急峻な坂道を登ってきてまで,利用しに来よるちうんは,あんまり期待でけへん。駐輪料金がタダになりよったくらいでそのコスト差が逆転するケースがどんだけあるちうんやろうか? 駐輪場も地下鉄も経営主体が同じ神戸市わいであることからしたら,駐輪場「無料化」による減収を地下鉄利用増で補うゆうような,増収効果は期待でけへんけど,ひとつん選択肢として,損切り的に「取れるトコから取る」くらいの可能性を示唆するゆう訴求効果はあるやろ。

また駅南側にある百貨店・スーパーを含めたショッピングセンターの利用ちう点では,さらに大きな問題があるんや。商店を利用,とりわけ買い物をする住民のニーズと行動動線からも,件の駐輪場が,距離的に隔てられとるだけやのうて,位置的にも外れとるからや。駐輪場無料化による商業施設の活性化を,効果として期待するっちうことは難しいけど,商業施設側が,市わいの自転車“対策”の尖兵に成り下がり,自転車および利用者にたいして,八つ当たり的に敵対的・排他的姿勢を取ることを抑止する上で,一定の意味はありまひょ。

もちろん売り上げ・利益増のためには,これとは別のトコから,効果的に自転車および利用者を呼び込む施策を打ち出す必要がありまひょ。自転車での来店者は,徒歩でのそれより広範囲からやってきて,ようけの買い物をする可能性があるんや。それを潜在的ニーズとして発掘するっちうことや。そのための施策にコストはほとんど要せんし,仮にかけたとしたかて,自家用車による来店客にかかるそれより遙かに少のうて済む。実質的な商圏の拡大と客単価の向上のもっともたやすく確実な方法が,自転車および利用者の尊重なんや。蛇足ながら付け加えれば,ショッピングセンターは買い物客用無料駐輪場を設置してん。

後者についちゅうやったら,件の駐輪場管理者は神戸市の外郭団体が指定管理者となって請け負っとるもんやけど,行政わいによる自転車“対策”を通じた大衆収奪を,その尖兵として担っとる点で,神戸市わいと実質一体のもんといわねばならへん。このことを粗暴な態度や言動から市民に覚醒せしめたといえまひょ。

これを単なる些末な問題とするんやのうて,自転車“対策”自体の不当性はもちろん,その利権化とそれを通じた大衆収奪にメスを入れ,神戸市わいお得意の前世紀的開発行政の負の遺産である,ニーズをシカトした過剰施設の一例として,駐輪場についての問題を認識し,これを根源からつくりかえてゆく方向性を持った取り組みへと,その質を高めてゆくことが,これから求められまひょ。

自転車および利用者について考える場合,自転車を交通・移動手段とし,走行環境といった主たる要素を見落としたらあかんし,駐輪のごときはその一部なんや。走行環境やニーズをシカトし,これらと切り離した議論や施策は無意味やし,とりわけこれを“対策”の対象とするにいたっては,自転車および利用者はもちろんのこと,広範な市民一般にとっても,有害無益なんや。自転車がその地域において,いかいなる交通・移動手段として位置づけられはるんか,今いっぺんようわかるようにせなあかん。ここでは,地理的条件に規定される形で,対象を絞ってきたが,近隣他地域との関係をシカトしてええわけとちゃうんや。

たとえばやなあ,名谷地区と同じ須磨区で,長田区に近い,山陽電鉄・市営地下鉄の板宿駅附近はどやろうか? ここではむしろ自転車“対策”は強化されとって,先に無料化されとる,山陽電鉄でひとつ東側の西代駅前駐輪場への流入による「利用増」ちう“効果”をもたらしとうことは既に述べたけど,板宿地域の自転車利用環境をはじめ自転車および利用者の置かれとる情況は悪化してん。自転車“対策(countermeajure)”が自転車および利用者を排他的・敵対的に追い回してんだけで,そこから「政策(policy)」ちうべきもんが何一つ生まれへんことを示す例となっとう。

そもそも公営駐輪場が有料やちうことは,公衆便所が有料やちうことと同じくらいの不条理やちうことを,今いっぺん想起しょう。ほんでまたこら,単に公営駐輪場の全面無料化につなげてゆくだけやのうて,その過程で,どなたはんもがその意志によって自由に移動する権利である「交通権」の観点から,自転車および利用者の主体的市民としての覚醒と自覚を勝ち取ってゆくことが必要や。あわせて,自転車“対策”をもその一環としてなされてきよったトコの,上からの煽動や組織化に抗し,市民としての主体性を理性的に獲得し高めてゆく質と方法を持ち合わせとうことが望ましおます。

(2009.4.15)

自転車“対策”と大衆収奪の抱き合わせ的強化を許すな

ふたたび西代駅前駐輪場に戻りまひょ。駐輪場の無料化に伴い利用が増加したもんの,周辺地域の人口や産業構造やらからして,自転車利用のニーズそのもんにたいする過剰設備であることが明らかとなりよったことは既に述べたとおりやけど,あろうことにか神戸市わいは,その過剰部分を“放置”自転車対策と大衆収奪の強化をもちう,利用していこうとしてん。


西代駅前無料駐輪場から“放置”自転車の保管所に転用された地上部分(左)と半地下部分(右) (2010.2.13)

西代駅前駐輪場が無料化されたときは,山陽電鉄の駅に近い側をこれに充て,無人化によって管理が難儀や思われた地下部分を閉鎖したちうわけや。駐輪場充当部分を同じ高架下の西側に移したあといったん閉鎖されとったが,2009年度に入って“放置”自転車の保管所に再利用されるようになりよった。同年後半期には地下部分まで,駐輪場に引けをとらへん「利用率」となっとう。

もともと神戸市わいは,こないな駐輪場無料化の一方で,自転車“対策”を強化させとって,総体として,神戸市内,とりわけ中心部での自転車利用環境は近年悪化の一途をたどっとう。こないな「アメとムチ」的なやり方も,個別具体的には別個の地理的空間においてなされて来よったけど,ここにおいて結合させられてしもた。


西代駅前無料駐輪場(左)とその奥を充てられよった“放置”自転車の保管所(右) (2010.2.13)

駅からは遠いけど商業施設には近い側に移動した無料駐輪場の奥は“放置”自転車の保管所に充てられとって,2009年度からはこれらの業務を指定管理者の導入により請け負わせとう。

この山陽電鉄西代駅附近では,“放置”自転車どころか,自転車利用の需要そのもんが限られとうさかい,“放置”自転車の保管所として過剰設備を利用するためには,有料駐輪場しかあらへん他地域から持ち込むことになるちうわけや。かくしてここにはいくつもん駅附近から“放置”自転車が集められとう。そんだけ“放置”自転車“対策”が広範にわたって猖獗を極めることになるのや。神戸市の“放置”自転車“対策”にあっては,“撤去”した場所と同じ区で保管するんが通例やけど,ここでは他の区からも集められとう。この駐輪場と保管所は長田区やけど,“撤去”場所のひとつである板宿駅は須磨区や。

この駐輪場は無料化に伴い無人化したんやけど,2009年度に入って指定管理者が管理を請け負うとう。また隣接する保管所における返還・管理とあわせて抱き合わせになっとう。すなわち後者の上がりをもって無料駐輪場の管理コストに充てたろちうわけや。“放置”自転車“対策”による大衆収奪を強化し,それを前提として「無料」駐輪場を維持したろとおもうこと自体,矛盾に満ちたデタラメきわまらへんもんなんや。

神戸市わいによる,自転車“対策”と大衆収奪の抱き合わせ的強化を許したらあきまへん。

(2010.2.22)

参考

神戸市がやっとること」・「尼崎市・西宮市・芦屋市がやっとること

「全国自転車問題自治体連絡協議会」をつぶせ
(世界に類例を見ない愚劣な日本の自転車“対策”の元兇「全国自転車問題自治体連絡協議会」の犯罪性・欺瞞性についてはこちらを参照したってや。)
全国自治体における「“放置”自転車」“対策”の概況
(世界に類例を見ない愚劣な日本の自転車“対策”の元兇「全国自転車問題自治体連絡協議会」に参加・協力する自治体を中心に,全国各地における「“放置”自転車」“対策”の罪業を概観。)

Super Link 関西駐輪場情報」(都市交通問題調査会