練馬区における実例

東京23区の西北端にある練馬区は,「全国自転車問題自治体連絡協議会」なるものを組織し,区長・岩波三郎(2003年4月退任)がその会長を務めるなど,「“放置”自転車」対策において全国の自治体の最先頭に立っていることで,その悪名をとどろかせている。いわば自治体・行政による自転車イジメの総本山である。自転車利用者の地位や権利についてはないがしろにしたまま,近年にいたっては,“受益者負担”などの口実のもと,その猖獗ぶりがさらに悪化しつつある。


練馬区役所(左; 2002.11.30)と“放置”禁止の看板 (右; 2003.3.28)

バブル期に建設された豪華庁舎の典型。建設のみならず,維持・管理にも多額の費用がかかり,ひいては区の財政を放漫化させてゆく。威圧的な外観と色は,自転車に対する姿勢を反映しているようだ。練馬区当局は,「放置」・「撤去」のみならず,こうした自転車の保管を「集積」と呼び,まさにゴミ同然の扱いをしている(これらのコトバの不当性については「日本の都市における自転車利用の現状」を参照)。

練馬区当局の強権的自転車敵対政策

練馬区当局が「全国自転車問題自治体連絡協議会」(自称「全自連」,以下「協議会」と略す)を通じて行ってきた主要なことは,「“放置”自転車」対策にかかる自治体の権限強化なのだ。この「協議会」は結成当初のみならず,その成立過程からさかんに「自転車の安全利用の促進及び自転車駐車場の整備に関する法律」(いわゆる「自転車基本法」)の「改正」(もちろん自転車利用者から見れば「改悪」である)を求めるロビー活動を行った(要は圧力をかけた)のであるが,練馬区当局はまさにその最先頭に立っていたのだ。またあわせて,「協議会」を牛耳ることで,全国の行政当局−地方自治体による自転車“対策”を,愚劣にして強権的な方向へと領導することさえしたのだ(「「全国自転車問題自治体連絡協議会」を解体せよ」参照)。

練馬区は,バブル期に豪華庁舎を建設し,建設費のみならずその後の維持費などにも多額の出費を恒常的に続けているにとどまらずらず,区施設で使用する什器・設備なども短期間で処分しては入れ替えるなど,慢性的に放漫的・浪費的な財政支出をしてきたことで知られている。こうした練馬区当局も,昨今の経済情況を考えれば,新たな支出対象は見つけにくいと思われがちだが,実はそうではない。この「“放置”自転車」“対策”こそが,青天井の支出対象とされているのだ。

練馬区では「“放置”自転車」“対策”に年間10億円もつぎ込んでいるとしている。このことは第一に,「“放置”自転車」“対策”が区当局にとっておいしい浪費先であり,その金額の分だけ大きな利権となっていることを示すものであり,第二に,自由競争や市場原理でコストが決まるものでないのみならず,区当局者が恣意的に押し上げることができることを示している。まさに練馬区当局にとって「“放置”自転車」“対策”は「金のなる木」なのである。

こうした利権の増大とあいまった権力の肥大化が,住民サービス向上とはおよそ無縁な,危険きわまりないものであることを確認し,警戒しなければならない。

練馬区当局による自転車“対策”の強権性を目に見える形にした例をひとつ挙げておこう。練馬区では区の委託を受けた自転車整理員は,警察関係者と見まがうような紺色の作業服を着用している。これはまさに,練馬区当局の強権的自転車敵対政策を体現したものである。普通この種の作業では,明るい色,もしくは目立つ色を着用することが多く,中には蛍光色のものや反射ベストを着用する場合もある。これは高齢者が多い作業従事者の安全に配慮したものであるが,練馬区当局の眼中にそうした配慮はない。自転車や利用者だけでなく,整理作業従事者をも虐待しているといえよう。

全国の行政当局−地方自治体で自転車“対策”を担当するのは,公務員としての資質に問題があり,場合によっては社会人としての見識すら疑わしい者が多い。いわば他の部門ではつかいものにならない職員の“集積”所となっているわけだ。だが練馬区においてはこうした輩が,かかる膨大な利権を背景にして,「協議会」の活動をトップである区長との関係強化に活用して,自らの出世に利用しているのだ。

また練馬区当局は,マスコミを,区当局の自転車“対策”に対する“熱心”さを印象づけ,時には欺瞞を交えつつ,一方的な宣伝の場として利用することも多い。これについては没主体的・無批判的に盲従するマスコミの責任も問われなければならない(「TV番組「ジカダンパン」批判」・「TV番組「妙案コロシアム」批判」参照)。

練馬区当局による,かかる反人民的・反環境的自転車敵対政策を弾劾し,今こそ私たち主体的市民の手で根底からつくりかえていこうではないか。

地域別に見た自転車利用環境

練馬区は全体的に平坦な地形で,急坂がほとんどないため,地形的には自転車利用に便利なところである。近場での買い物など,日常的な移動手段としての自転車利用にはいいが,自転車で直接都心部までアクセスするには距離がありすぎる。そのため通勤・通学にはpark and ride的自転車利用の需要が多くなる。こうした自転車が,練馬区当局の敵視と大衆収奪の対象とされる。

練馬区内における自転車と利用者が置かれている情況についてみていこう。鉄道沿線・駅別に取り上げるが,量的な側面を除いて,特別な差異があるわけではない。

西武沿線

練馬区南部を東西に走るのが西武池袋線だ。営団有楽町線との相互乗り入れとも相まって,池袋および都心方面にアクセスする主要ルートとなっている。最近では区内の高架区間が増えた。高架化工事は最近完成したばかりで,高架下利用はまだ進んでいないところも多いが,自転車利用者の利便に寄与する用途は期待できそうにない。また,西南部には西武新宿線も通っている。同線沿線は近隣の杉並区・武蔵野市などとの,区市境を越えての利用も多い。



江古田駅附近 (2003.3.28)

(上)江古田は日大芸術学部・武蔵野音大・武蔵大がある個性豊かな学生の街で,生活費も安くできるところだが,自転車にかかるコストはでそうもいかない。(左)駅近くは商店などが密集しているため,やや離れた線路沿いが駐輪スペースとなる。(右)区営駐輪場は駅から離れたところにあり,商店街をかなりいったところか,はずれにある。



練馬駅附近 (2003.3.28)

(上)練馬駅は区当局のお膝元とあって,自転車放逐にもメンツをかけて執念を燃やしている。(左)高架下の駐輪場はやはり高架下にあるスーパー来店者用。(右)ディスカウントショップで安価な自転車が売られている。自転車利用者のコスト意識の厳しさを反映している。


中村橋駅附近 (2003.3.28)

(左)高架化された駅のそばや高架下には駐輪場はない。(右)南側に少し行ったところにある千川通り沿いに駐輪場がある。無人で,夜間の照明は水銀灯一つだけで,広い通りに面していながら周囲の明かりも殆ど入ってこない。狭い入り口は荷物を持った人や買い物客には不便。女性の利用は危険。


富士見台駅附近 (2003.3.28)

駅前附近は未整備で駐輪場もないが,「“放置”禁止区域」だけはある。これまた練馬区当局の強権的自転車敵対政策の所産だ。


練馬高野台駅附近 (2003.3.28)

(左)めずらしく駅前からすぐのところに駐輪場がある。練馬区営で有料。高架の横にあるが,高架下には閑古鳥が鳴く駐車場がある。(右)スーパーマーケットなど駅前に商店がある北側には駐輪場がない。



石神井公園駅附近 (2003.3.28)

(上)駅附近の線路沿いには,数多くの自転車が長距離にわたって並んでいる。(左)駅入口に最も近いところにある駐輪場は,西武鉄道が経営している。地の利を利用してか,区営より料金は高い。鉄道会社が駐輪場を経営すると利用料金が高くなる傾向にある。自転車および利用者を「金のなる木」とでも見ているのだろうか。(右)練馬区営の駐輪場で,比較的新しいものは,グリーンを基調にしている。自転車が環境に優しいことによるのかも知れないが,自転車および利用者を敵視・虐待する練馬区当局に,この色を用いる資格の一片もないことは,もはや明らかであると言わねばならない。まさに区当局の欺瞞の象徴といえる。



大泉学園駅附近 (2003.3.28)

(上)練馬区内では都心からもっとも離れた駅(区境附近にあるものを除く)といえる大泉学園駅附近の線路沿いには,数多くの自転車が長距離にわたって並んでいる。同駅北部に広がる大泉学園方面には鉄道が通っておらず,駅へのアクセスには必然的にバスか自転車を利用することになる。同駅への自転車でのアクセス需要は多い上に切実であるといえる。(左・右)区営駐輪場は,線路下をくぐるアンダーパスの底部附近にある。ここでは「ねりまタウンサイクル」と称するレンタサイクル事業も行っている。これは,利用者の主体的自由意志による選択の結果として生じる利用需要によって存在可能になるものではなく,「“放置”自転車」対策=駐輪非合法化強行によって,“需要”が生み出されたものであるといわねばならない。

有楽町線沿線

営団地下鉄有楽町線は,練馬区中・東部を南北に通り,池袋方面にアクセスする。区内の沿線はおもに住宅地で,ところによっては農地も見かける。地形的には,練馬区内としては起伏がある方だが,急坂はなく,自転車利用に都合がいいといえる。


氷川台駅附近 (2003.3.31)

(左)氷川台駅附近には区営駐輪場がある。有料ながら利用率は高い。これまた区当局の強権的自転車敵対政策の所産だ。(右)石神井川沿いにも多くの自転車が停められており,利用者の立場・利害との矛盾を示している。



平和台駅附近 (2003.3.31)

(上)スーパーマーケット・ライフの駐輪場。道路から店舗に至る間に駐輪場を配置し,来店者が駐輪して入店するまでの行動の流れを自然かつスムーズにする形となっている。これは利用者にとって便利であると同時に,店頭に並んだ自転車が,多くの来店者がいることを演出する役割をも果たし,さらなる千客万来をねらったものである。こうした店舗設計は同社に共通した基本的特徴のようだ。同店では駐車場も同じように配置されている。(左)区営駐輪場。(右)東京都の外郭団体・東京都駐車場公社が運営する駐輪場。環八通りをはさんで運営主体が異なる駐輪場がある。ともに有料だが利用料金・条件が異なり,利用者にとって不便。

大江戸線沿線

都営地下鉄大江戸線は光が丘から新宿を結ぶ,練馬区内では新たな都心へのアクセスルートだ。新宿からは「地下の山手線」とも言うべき環状ルートに入り,他地域へもアクセスできる。しかし運賃が高く,断面積の小さいトンネルを小振りな車両が通るために,快適性を欠き,輸送量にも限界があり,なおかつ既成路線が通っていない地域を回るため,利便性も悪く,利用者数も予想を大きく下回っている。そのため実際には,駅ができても,そこに自転車が集中することは少ない。

練馬区当局は,それにも関わらず,同線開通がこの地域における「“放置”自転車」が増加した原因であるとしているが,これは正確ではない。実際には,練馬区当局による,大衆収奪強化にはしる利用者無視の強権的自転車敵対政策が,かかるものを生み出したことは,一目瞭然である。


練馬春日町駅附近 (2003.3.31)

環八通りに沿った自動車の交通量が多いところだが,自転車利用者は多くない。自転車利用者を集客する大規模な商業施設や公共施設が,この附近にないためでもある。環八通りに沿った空き地を民間不動産業者が有料駐輪場にしている。その後ろに区営駐輪場があり,こちらも有料。いち早く自転車と利用者を大衆収奪の餌食にした格好だ。


光が丘の駐輪情況 (2003.3.31)

(左上)以前からあった駐輪場。練馬区営で当然有料。しかしここが有料化されたのは地下鉄大江戸線が光が丘まで延伸された翌年の2001(平成13)年のことだ。(右上)ニュータウン中央を東西に走る大通り。この路上には多くの自転車が止められていた。練馬区当局は最近になって,この場所に駐輪用ラックを設置し,有料駐輪場とした。駐輪実態・需要に応じて駐輪場を設置するだけなら至極当然のことだが,有料化による大衆収奪の強化と,駐輪可能台数の減少を見落としてはならない。(左下)路上の駐輪可能台数の減少により,隣接するショッピングセンター・光が丘TMAの駐輪場が混雑し,これに入りきれない自転車は,以前駐輪されることのなかった通路や,さらにはペデストリアンデッキ上にもおかれるようになった。(右下)もちろん光が丘TMA脇の光が丘公園に至る道路にも自転車が増えている。これらは,練馬区当局による利用者無視の自転車政策の所産である(「TV番組「ジカダンパン」批判」参照)。

(2003.4.1, 6.6)


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