日本地方自治体の自転車“対策”と
「全国自転車問題自治体連絡協議会」

日本の行政当局では,自転車を「問題」と認識し,自転車および利用者を対策の対象と位置づけるという否定的情況が,大手を振ってまかり通るという異常事態が常態化している。自転車“対策”はあれども自転車“政策”はないというべきだ。これを強権的に進めるうえで犯罪的役割を果たしてきたのが「全国自転車問題自治体連絡協議会」(略称として「全自連」を自称しているが,ここでは「協議会」と略す)である。日本地方自治体の自転車“対策”および,「協議会」の犯罪性・欺瞞性の一端と,それを知る手がかりをここに紹介する。

「全国自転車問題自治体連絡協議会」関係主要資料

「協議会」に関する資料は,内部文書として外部・一般には公開されていないものが少なからずある。一方で,「協議会」名で発行されている資料もある。また,「協議会」やその前身が行ったロビー活動や,これに関する国会の議事録,「協議会」に協力してきた「学識経験者」の著述からも政策動向を知ることができる。

「協議会」発行のもの

単行書・冊子

●「都市交通の歪放置自転車」2002.6
副題に「全国自転車問題自治体連絡協議会 10年の事跡」とあるように,「放置自転車に悩む全国の自治体が相互に連携をとり問題の解決の方策を模索し始め 」て,1992(平成4)年に「協議会」が結成されて以来10年間にわたる活動の内容を「事務局資料に基づき」まとめたもの。「協議会」のトータルな歴史ではなく,事務局を置き,これを牛耳ってきたところの,東京都練馬区を中心とした部分が,自転車“対策”のための権限強大化を追求してきた足跡へと収斂された内容となっている。

同書は,自転車および利用者を貶める,信憑性に欠ける根拠不明の記述や事実無根の記述が散見されるほか,「住民には自転車利用に関する知識が皆無に等しい」(p.14) などという侮蔑的記述を挙げるまでもなく,まさに,強権的自転車“対策”を担う行政当局の独善性に貫かれたものである。また,おどった文章や不必要にくどい表現などが散見されるが,ここからも,行政当局−自治体の自転車“対策”従事者の資質と見識の低さをうかがい知ることができる。

以下に紹介する構成からだけでも,その欺瞞・独善・犯罪性は一目瞭然だ。

序章 全自連発足前の自転車対策
第1節 放置自転車問題
自転車問題は昭和49年以前にすでに始まっていた/地域住民の苦情から自転車問題の解消へ/
放置自転車は,環境問題ではなく交通問題である/放置自転車はなぜ撤去できるのか
第2節 自治体の動き
市区町村の自転車対策はどのように行われてきたか/自転車駐車場の問題をどのように解決してきたのか/
重要なことは財政の問題と制度上の問題である/撤去条例は寝屋川市から始まった/
自転車問題発生の原因を考えてみよう/自転車は購入しやすい交通手段である/
自転車駐車場設置はどこの仕事だろうか
第3節 鉄道事業者への対応
鉄道事業者の「積極的協力義務」の実現までの経過/市民団体の支援をえた全自連の活動/
鉄道事業者の協力制度確立に向けての努力
第4節 国や都道府県の関与
国や都道府県の対応はどうだったか

第1章 「全自連」の結成
第1節 自治体への呼び掛け
全自連結成はどのようにはじまったか/草の根運動の発端は,東京・杉並区のある課長発言で始まった/
具体的な各自治体への呼びかけは,このようだった
第2節 準備会の結成
全自連の設立準備会の活動がはじまった/自転車基本問題研究会会長に送った要望書が語るもの
第3節 設立総会の開催までの経過と開催
いよいよ全自連設立の機がやってきた/全自連設立総会・促進大会がはじまった

第2章 「自転車法」の改正と全自連
第1節 国会・関係省庁との交渉
ここでもまた,鉄道事業者との交渉が待っていた/片岡小委員長との対応/
改正自転車法の施行前後の「改正法」の性格の違い
第2節 自治体相互の連携
自治体相互の連携のはじまり/市民団体との提携のはじまり,自治体相互間の動きが活発になってきた
第3節 市民団体の参加
自転車問題解決国民大会は実施できないか/放置自転車解消住民決起大会が立ち上がった
第4節 自転車法改正の終焉
自転車法改正の総括/自転車撤去料の徴収のはじまり/積み残された「売却規定」の問題

第3章 全自連の活動と社会貢献
第1節 阪神・淡路大震災における支援活動
災害復興救援物資としてリサイクル自転車を輸送/練馬のレインボーサイクルが被災地へ/
阪神・淡路大震災に伴う自転車輸送について
第2節 サイクルラック設置支援事業の実施
自治体の経費負担を軽減する目的で/当面は適用を受けた自治体から,一定の経費を負担させる方法
第3節 研究会の開催と各種調査研究の実施
全自連設立準備会ニュースが初の発行物/欧州視察がもたらした情報とその後の全自連の活躍/
頻繁に行われた研修会の開催/自転車対策推進のための調査・研究
第4節 国及び国会の調査機関への参加
自転車法改正後活発に行われている調査研究/社会的組織づくりをするための調査研究会の創設を/
高度利用調査研究委員会などが未来の自転車問題を解消する
第5節 冊子類の発行
情報交換誌の発行/「自転車対策研究」一覧

第4章 全自連の今後の活動
第1節 今の全自連には現状からの脱皮が必要
法体系の不備の是正と科学的視点を持とう/自転車先進国にみる社会資本のあり方/
自転車利用システムを再構築していくために/駐輪場の有料化とレンタサイクル/各自治体の工夫のいろいろ
第2節 社会資本の整備
まずは自転車が走る街づくり/新システム構築に向けて

●「鉄道事業者の対応状況アンケート集計結果」1997.3
●「鉄道事業者の協力を活用した自転車駐車場の整備」1993
「“放置”自転車」の多くが鉄道利用者によるものであると認識する「協議会」では,鉄道事業者への負担転嫁を主要課題のひとつとしてきた。「協議会」発行物ではかかるテーマに関するもののウェイトは少なくない。だがかかるものの本質は,「“放置”自転車」の「対策」が利権となっている自治体にとって,さらなる利権拡大と権力肥大化を図るものに他ならない。また,この数年来乗客数が漸減傾向にあるという,鉄道事業者の置かれている立場を顧みず,さらには自転車との共生,自転車利用者の乗客獲得に向けての鉄道事業者独自の発想による取り組みを阻害するものであるという点で,きわめて一方的・独善的かつ犯罪的なものであることを,見抜く必要がある。

●「要説改正自転車法」1995.03 (自転車法制研究会編)
「協議会」に肩入れし,自治体・行政当局による自転車“対策”のための権限強大化をすすめてきた兼子仁(東京都立大学名誉教授,行政法)が実質的著者。

●「何はさておき、まず自転車」1993.10
  (オランダ交通土木省著,全自連第一次欧州視察団訳,監修:渡辺千賀恵)
監修者・渡辺千賀恵は九州東海大学工学部教授。土木工学(交通工学ではない)の立場から都市交通計画論(自転車交通計画論)を研究している。土木的立場からのアプローチをのぞけば,その研究内容と「協議会」およびその参加自治体の施策との間には懸隔がある。いわば免罪符や箔付けとして「協議会」に利用されている面がある。「協議会」では,自転車利用先進国の事例を見聞すると称して,何度か欧州外遊を行っており,その報告の類もいくつか出されている。こうした見聞結果・報告事例が,日本の自治体による自転車政策に反映されることは絶無。むしろその逆を猪突猛進してきたのが「協議会」だ。本書の構成からは,「協議会」が目にしつつもその実現を回避しているものについて知ることができる。
※( )内は内容紹介。

1はじめに

2自転車の国−オランダ
 2.1 オランダにおける自転車の地位
(1400万台/1500万人,舗装道路105000km中自転車専用15000km,高速道路2000km,自動車利用増加抑制に「各方面合意に達し」ており「自転車利用の促進が寄与」展望)
 2.2 オランダの環境計画
(50年代;町が広がり,村の都市化すすむ,60〜70年代;自家用車増加,郊外の住宅形成顕著,会社・工場も旧都市部外へ,80年代〜;公共交通機関への投資増加,90年代;初に都市人口減少止まり再開発始まる,一方で80年代以来の開発継続。2010年までに大都市圏の再建に集中的に投資する計画,大中規模都市に,自動車交通の伸びを経済面から適正な限度に抑える努力。自転車盗難多い;年間100万件,1分半に1台)
 2.3 オランダの行政組織
(4段階での政策決定;
 国(内閣(執行部)第2院(下院),行政権の分散を基本。交通土木省が高速道路建設),
 州・市の行政府(道路管理の中心は市),
 交通区(近年設置,すべての行政府の交通政策事業に対する施策を調整))

3オランダの道路交通
(オランダ政府の交通政策;車に変わるものとしてとくに自転車を奨励,90年末「第2次交通体系計画」が議会で承認,91年「自転車基本計画」へ)
 3.1 交通体系計画
(「持続可能な社会」を交通政策の基準,方向定める尺度。生活の質を高め,車の利用を抑制,交通の便を維持することが計画の基本。騒音・大気汚染・交通事故死傷者数の減少を予測)
 3.2 生活の質の向上
(酸性雨・地球温暖化・騒音におる人身不安・[動植物や人間が暮らす場所の]細分化・道路の安全)
 3.3 移動の伸びを抑制
 3.4 交通の便の改善

4自転車の新しい役割
 4.1 自転車基本計画
(目的;自転車交通を促進するために一貫した国家政策を示すこと,効果的な手法の開発と実行に寄与すること,他の交通機関,公共団体,公共交通関係の企業,その他の企業が適正な措置を執るよう促すこと)
 4.2 方針
(「ごほうび方式」と「罰則方式」の併用)
 4.3 自転車の好機
(全移動の60%が5km以下;車移動の40%,自転車の得意,公共交通機関との組み合わせで自転車利用促進,ここでも車の代替に)
 4.4 長所と欠点
(プラス面:
 ・自転車はとくに5kmまでの距離にむいている,
 ・自転車は公共交通機関の端末交通に適している,
 ・自転車のためのインフラの建設や改良はかなり安い,
 ・自転車交通には環境汚染も騒音もなく,地方の細分化にも関係しない,
 ・自転車はのっても止めても場所をとらない,
 ・自転車はよいイメージを持つ。また,あらゆる層に好ましい交通手段と認められている,
 ・自転車は交通渋滞に巻き込まれないし,速く目的地に着く点で信頼されている,
 ・自転車に乗れば気分がほぐれ健康的だ,
 ・自転車は安上がりだ。自動車や公共交通機関の費用は高くなっていることからこれは特筆すべきことである,
 ・自転車は一人一台,好きに使え,手近で,家から目的地まで横付けできる,
マイナス面:
 ・事故に遭う確率がかなり高い。1990年には全道路交通事故死の229%,届出があったけが人の24%が」自転車によるものであった。車とぶつかった場合,最も犠牲になりやすい,
 ・多くの場合,自転車専用道路の安全性に問題がある。これは照明が不十分だったり,植え込みが伸びすぎていたり,道が曲がりくねり,おまけに人家がないなどによる,
 ・自転車レーンの状態がよくない。道の接続が悪く快適でない。管理も不十分なところが多い。交差路で道を選びにくい。道路標識が不完全である。自転車に乗っていると無駄な回り道をすることが多い。
 ・適当な自転車置場や収納ラックが不足だ。このため盗難の危険が多い,
 ・自転車と公共交通機関を乗り継ぐ場合,置場が十分ない。自転車は天候に左右される)
 4.5 目標とその達成方法
(車から自転車や「自転車+公共交通」への転換や,道路の安全性,盗難,駐輪場,自転車利用の推進などかかげる)

5手順とモデル計画
 5.1 参加組織
(市・州政府(施設),交通区,国土土木省(自転車計画プロジェクトチーム),農林水産省,経済省,法務省,内務省,福祉保健文化省,住宅国土計画環境省。自転車計画を実施する場合,関係省庁や圧力団体が定期的に論議を重ねる)
 5.2 予算
 5.3 モデル事業
(車から自転車への転換,自転車利用者の安全,盗難と駐輪場,情報伝達と利用促進(雑誌・テレビ・表彰)

巻末 原本掲載

逐次刊行物

●「自転車対策研究」1992〜ほぼ年刊
参加自治体担当者による事例報告・紹介を中心とした「協議会」機関誌。自転車“対策”のエスカレートぶりがわかる。以下,発行時期と特集の題目を挙げておく。

  • 自転車条例の制定にあたって ; 1号 1992.11
  • 放置自転車のリサイクル ; 2号 1993.2
  • 地下式駐輪場と立体機械式駐輪場 ; 3号 1993.5
  • 練馬区の自転車対策 ; 4号 1993.8
  • 放置自転車の撤去 ; 5号 1993.11
  • 「附置義務」について ; 6号 1994.2
  • 「自転車駐輪場の有料化」について ; 7号 1994.7
  • 若手職員の主張 ; 8号 1994.12
  • 「条例改正」について ; 9号 1995.12
  • 「鉄道事業者との関わり」について ; 10号 1996.3
  • 「自転車対策に係る都道府県の役割 ; 11号 1997.3
  • 「自転車の高度利用(レンタサイクル); 12号 1997.8
  • 13号 1998.11
  • 14号 1999.9
  • 自転車駐車場整備・運営におけるPFI導入の手引き書 ; 15号 2000.12
  • 我が国の自転車政策のあり方に関する調査・報告書 ; 16号 2002.6

●「市区町村自転車対策事業紹介(全国版) 」1992〜ほぼ年刊
各地の自治体が行っている自転車“対策”に関する質問の回答を集めたもの。「協議会」参加以外の自治体についても若干含まれている。駐輪に関する条例,公営駐輪場の運営,「“放置”自転車」“対策”の実態などを,自治体ごとに掲載。

その他

現在準備中,しばらくお待ち下さい。

(2003.5.4, 5.26 ,7.10)

参考

「全国自転車問題自治体連絡協議会」を解体せよ
(世界に類例を見ない愚劣な日本の自転車“対策”の元兇「全国自転車問題自治体連絡協議会」の犯罪性・欺瞞性についてはこちらを参照されたい。)
全国自治体における「“放置”自転車」“対策”の概況※このページの附表を移動しました
(世界に類例を見ない愚劣な日本の自転車“対策”の元兇「全国自転車問題自治体連絡協議会」に参加・協力する自治体を中心に,全国各地における「“放置”自転車」“対策”の罪業を概観。)
豊島区による「放置自転車等対策税」導入策動を弾劾する
(この導入策動にも「協議会」は深く関与している。)
『自治体・住民の法律入門』批判
(同書の著者・兼子仁は,「協議会」が追求する,自転車“対策”における行政当局の権限強大化に加担してきた人物である。)

駐輪場強行設置の根拠となった自転車法改正は実に漫画チックな策略
(木村愛二氏のサイト 憎まれ愚痴仰天!武蔵野市『民主主義』周遊記」より)