都市型レンタサイクルに明日はあるか?

近年大都市部で都市型レンタサイクルが広がりつつある。都市型レンタサイクルの現状を概観し,その課題と展望を探っていこう。

公営レンタサイクルの明暗と功罪

首都圏では,地方自治体が営む都市型レンタサイクルが目立つ。“放置”自転車“対策”の一環として始めたところが多いのがその特徴だ。“放置”自転車“対策”を強化する中で需要を析出し,平坦な地形に助けられてねりまタウンサイクルの事業継続を可能にし,併せもって利権の独占を謀っている練馬区,“対策”一辺倒で需要を考慮せず事業廃止にいたった豊島区,利用できる自転車に特色を持たせた文京区といったような例を見るだけでも,その明暗や功罪が分かれている。


ねりまタウンサイクル・大泉学園駅 (左,2003.3.28),
一時期レンタサイクルが行われていた池袋東口地下駐輪場の上。(右,2000.9.9)

“対策”からなされたものは失敗する

公営のレンタサイクル事業は総じて,既存の自転車利用需要を斟酌したり,市民の移動交通ニーズに即したところから出発して始められることは少なく,“放置”自転車“対策”の中から,その一環として生みだされたものが目立つ。その成功の度合いの低さの最大の原因がここにある。利用ニーズの無視や既存の自転車“対策”とのかねあいでなされる中では当然の帰結だ。かかる誤った出発点を改めない限り,成功も改善もないことは,言うまでもないことだ。

地域内回遊性の追求では限界

また,純然たる公営ではないものの,第三セクター,半官半民,公費補助を得たNPOといったものによって運営されているものもあるが,こうしたものは,“放置”自転車“対策”から出発するという愚を犯すウェイトは低いが,地域活性化を追求するあまり,特定地域内の回遊性を高める手段として自転車の活用をもくろむものがある。


市川市の無料共有リサイクル自転車「フレンドシップ号」(左,2003.9.6),荒川区の共有自転車(フリーサイクル) (右,2004.6.1)

そのもくろみの範囲では一定の需要を満たしても,事業として成立し継続可能になるまでにはいたらず,移動交通手段として考慮されていないことから,かかる需要にこたえることもできないばかりか,移動交通手段総体としては,自転車利用および,他の手段とのかねあいという点で,むしろマイナスになりかねない。

民間事業者が運営すると

営利企業である鉄道事業者では,確実に需要や収益が見込める観光地において営むケースが多い。そういったところでは,小規模な地元事業者との競合はあるものの,駅から近い好立地を活かし高料金ながらも集客可能にしているところが多い。観光以外でも大規模にレンタサイクルを営むところとしては鉄道事業者が目立つが,そうしたところでは,同じグループ企業であることが多い路線バスやタクシー,さらには有料駐輪場などとの競合を避けるよう価格や利用条件を設定することが多い。

大手鉄道事業者

鉄道事業者関連の運営になる都市型レンタサイクルが目立つのは,阪神圏を中心とした関西地方だ。その中で大規模なものについてみていこう。

市民のアシをめざせ:阪急レンタサイクル

その中で早くから事業拡大をしてきたのが阪急電鉄阪急レンタサイクルだろう。同社は自社沿線のいくつかの駅でレンタサイクル事業を営んできたが,それらをネットワーク化し,近隣駅間であれば相互利用・返却ができるようなサーヴィスもある。もっとも,こうした柔軟な運用も限られていたり,事業所・地域によって利用料金体系が異なったり,大阪梅田・神戸三宮・京都河原町などといった主要ターミナル駅や乗降人数が多く需要が見込めそうな駅において,かかる事業を営んでいないところが多いことなど,限界や制約は少なくなく,課題は多い。レンタサイクルとあわせて運営している駐輪場・阪急駐輪センターの料金が高額であることなど,関連事業とのかねあいでの疑問・問題もある。有料駐輪場に併設するしくみのゆえに,すでに公営有料駐輪場が整備されているところでは,レンタサイクルの需要が見込まれても営業できなくなってしまう。

もっとも料金値下げや簡素化といった利便性向上に向けての努力・改善がなされていることから,今後に期待はできるだろう。

阪急電鉄が阪神電鉄と経営統合し阪急阪神ホールディングス傘下となったことは周知の通りだが,HD成立により,以前から阪急阪神各社の傘下にあった能勢電鉄神戸電鉄北大阪急行電鉄北神急行電鉄山陽電鉄に加え,神戸高速鉄道にまで影響力・支配力を強め,阪神間神戸および以西については,民間鉄道間の競合から一部公営交通をのぞく独占の関係や,JRとの競合に代わることとなった。

こうしたことは,鉄道以外の交通機関や各社関連企業・事業のあり方を大きく変えるもので,競争の中で地域のニーズに即したものが形成されるというような,従来型の展開ではなく,先行したものや一定程度以上の規模にあるものがデフォルトスタンダードとなって,独占性を保持するべく拡大してゆくという形になりつつあるが,レンタサイクル事業においても,その可能性が高い。他の公共交通機関と同様,独占資本の利益追求に資するのではなく,地域住民の移動交通ニーズに即したものとなるよう,注視してゆくものでなければならない。

“放置”自転車“対策”の補完物に成り下がるな:駅リンくん

上述の阪急沿線より広範なエリアに広がっている都市型レンタサイクルが駅リンくんだ。これはJR西日本系列の駅レンタカー西日本が運営するもので,関西地区のJR主要駅において営業されている。

その営業規模は,月単位の定期利用と1日利用をあわせて行っているところでは数十台以上をそろえているのにたいし,1日利用のみの営業となっているところでは,駅レンタカーの一角で10台前後だけで行っているところもあるといったように,大きなちがいがある。しかもそういった区別は,その営業を行う駅の選定同様,各々の地域における自転車利用のニーズに照らしてなされているのではない。利用情況にも格差が大きいが,それを云々する意味はあまりないだろう。

実際の利用に際しては,もともとがレンタカー業者であるためであろうか,自転車にたいするそれとしては硬直した対応をもってされることも少なくない。

また料金体系において,利用料金を形式上安価に見せかけるため,1月定期利用に当たって,自転車の新品購入価格に匹敵する8000円を求めてみたり,「パンクをはじめ各種故障修理はお店におまかせ」と広告ではうたいながらも,実際には,事故・盗難等による減失同様,利用者の負担にさせるとする従業員もいる。さらに1日利用におけるそれでは,自転車の時価を超える10000円の「保証金」を要求する始末だ。さすがにその一部は改善されたが。


駅リンくん。三ノ宮駅 (上,2009.6.5),明石駅 (左,2009.7.23),新大阪駅 (右,2010.1.15)

三ノ宮駅では1日利用のみで駅レンタカーの一角で実質数台で運営,明石駅は山陽本線の高架下,新大阪駅駅入口隅で営業,いずれも地方自治体−行政当局による“放置”自転車“対策”のために作られ,後2者では有料駐輪場を併営。

地方自治体−行政当局が“放置”自転車“対策”のコストを鉄道事業者に転嫁することを目論み,さまざまな形で圧力をかけている(その中で犯罪的役割を果たしているのが全国自転車問題自治体連絡協議会であり,豊島区による「放置自転車等対策[推進]税」導入策動はその兇暴なであった)ことについてはすでに別稿で述べたが,この駅リンくんの導入先も,かかるところからなされたものだ。まさに“放置”自転車“対策”の補完物的存在なのだ。

またこの事業者は,レンタサイクルとあわせて有料駐輪場を設置したりすることも多く,その場所たるや駅構内や駅に近い,他の事業者にはできない場所であったり,その設置までは無料もしくは安価で駐輪できる場所であったりしたところも当然少なくないが,そういったことが,露骨になされているのだ。

ゆがんだ競争原理をもたらした“放置”自転車“対策”

これらの2事業者間では,一定程度,競争原理が働いているといっていい。だがそれは事業者にとっても利用者にとっても,かならずしもメリットになるような,健全なものとは限らない。

阪急側の料金値下げと料金体系の簡素化は,そのプラス面といえようが,定期利用の保証金徴収や,1回利用における身分証提示要求などは,むしろ改悪だ。これでは,公共交通機関と同様の都市内交通移動手段としては,その利用を制約するものだ。誰でもいつでも利用できるものでなければ,その役割を果たすことはできない。これは金額面を超えた根本的問題だ。

それ以前に,阪急レンタサイクルが,地方自治体−行政当局が“放置”自転車“対策”のすき間をぬって事業展開しているのにたいして,駅リンくんがその補完物となっているという,各々の前提条件が,競争の中での発展・向上という性善説的市場原理が適切に作用することを阻んでいると言わねばならない。

また,自転車利用者のニーズや情況が多様である以上,レンタサイクルにあってもそのニーズは多様になる。となれば,特定事業者による独占・寡占のもとにあってはかかるニーズにはこたえられない。大小さまざまな事業者の広範な市場展開ができるよう環境整備されることが,あわせて課題となろう。

(2010.3.10)

参考

こんなんでええんかいな!? 「駅リンくん」 (HARA Hideki's Room),
うさんくさいなぁ「全自連」・3 (HARA Hideki's Blog)